シャンタル・アケルマン(Chantal Akerman 1950-2015)

シャンタル・アケルマン監督 シャンタル・アケルマン監督特集チラシ画像

 ベルギー出身の映画監督。ゴダールの映画に影響を受けたとか、アメリカでジョナス・メカスに師事したとか、 映画に革命を起こした女性監督であるとか、プロフィールや評価などについてはウィキペデアなどをご参照 いただければよいと思いますので、ここでは割愛させてください。 この紹介では、日本におけるアケルマンの受容などについてご説明できればと思います。 というのも「シャンタル・アケルマン」という名前は日本においては比較的最近の発見であるからです。

 勿論、ジル・ドゥルーズの「シネマ」にも言及されている映画監督なので、プロの映画批評家の間では浸透して いただろうし、世界映画史における女性監督としては常に名前が挙がってくる名前でありました。 しかし一般の映画ファンの間でその名前が呟かれるようになったのは、2022年に行われた「シャンタル・アケルマン 映画祭」と本年に行われた「シャンタル・アケルマン映画祭2023」においてでしょう。ただしこの二つの映画祭の 間には大きな違いがあります。

 それは、2022年の「映画祭」直後に、英国映画協会(British Film Institute、BFI 1933年に発足)が発表する 「映画史上ベストワン2022年」の第一位にアケルマンの『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、 コメルス河畔通り23番地』(以下『ジャンヌ・ディエルマン』)が選出された点にあります。昨年2022年の12月初旬 だったと記憶(第28回宮崎映画祭の直前だった!)しますが、僕自身も驚いてFBに何か書いたような記憶があります。 したがって2023年の「映画祭」では、ベストワンの監督になっているということです。そんなことを見越して いたのか、と「映画祭」企画者の方に話を聞いてみたくもあります。

 しかし若干、時代的なことも関係しているだろうな、と考えたのも事実です。 本作が選出されたBFIの「映画史上ベストワン」は、映画批評家の投票によるものなのですが、そこには 男性中心に映画批評というジャンルに多くの女性がかかわり始めたということ、先般来のme too運動のごとく、 根強く残る女性軽視の風潮に対するカウンターがあるということ、そのことを象徴するように未だ女性監督作品の ベストワンが選出されていないということ、等々。つまり時代がシャンタル・アケルマンを求めたという感じが しないでもない。ただ一方で、僕自身も基本的にはミーハーな映画ファンですので、ベストワンと聞いちゃあ、 黙っておられない。

 『ジャンヌ・ディエルマン』については配信もされておりますが、しかし210分もの間、配信で観るのは 実のところ非常に辛い。しかしこれが映画館となれば、なぜか観れてしまうのが映画館の魔力とでもいうべき ものでしょうか。途中トイレに立っても構わない、映画の見方は自由だし、これまた不思議なことなのですが、 トイレに立つことでその辺りのショットを明確に覚えることができる。アケルマンが映画に取り入れたのが、 ある種の自由なのだとしたら、観客もある種の自由を享受しつつ観るというのは、この監督が目指した精神に 反するものではないと考えますが、どうでしょう。

鈴木清順監督

関東無宿フライヤー画像 探偵事務所フライヤー画像

 前にもどこかで書きましたが、鈴木清順監督を宮崎映画祭に招聘しようとしたことがあります。 『オペレッタ狸御殿』(2005)の時ですから、第12回宮崎映画祭のときだったと記憶します。 この時すでに酸素吸入器は手放せず、横にドクターに介添えしてもらう条件で話を進めていたのですが、 体調を崩されて実現しませんでした。『狸御殿』の前作『ピストルオペラ』の脚本を、宮崎映画祭常連(!?)の 伊藤和典氏が手掛けられておられることから(『ピストルオペラ』の宮崎上映の際には伊藤氏がご来宮されました)、 この生きる伝説の話を生で聞いてみたいと切望していたのですが。

 生きる伝説と書いたことについて少々補足しておきます。1995年に開始された宮崎映画祭は様々なゲストを 招聘していますが、実のところこの95年辺りは一般的には日本映画の低迷期として記憶されています。僕個人の 体感からいうと、日本映画というと「ダサい」「安い」「つまらない」と、あまり映画を知らないような人から 言われたものです。今のように日本映画が大ヒットするには『Shall we ダンス?』(1996)、『もののけ姫』(1997)、 『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998)を待たねばなりません。そんな中、いや実は日本映画は面白い、と 映画祭的に声高に叫ぶためにはその時々の旬の監督で、この先有望な監督を呼ぶ必要がありました。 そのために実は宮崎映画祭は、撮影所出身の、日本映画の全盛期を知っている監督をほとんど招聘しておりません。 恐らく森﨑東監督(もりさき あずま/『ニワトリはハダシだ』)が唯一の例外であろうと記憶しています。つまり映画の80~90年代の 状況は、自主映画から映画を始めた監督が商業映画に抜擢され、作品を撮る時代に入っており、撮影所時代から 監督はテレビシリーズなどを撮っているという状況でした。撮影所時代のプログラムピクチャーを手掛け、そして 未だに新作を発表し続ける映画監督は伝説以外何物でもありませんでした。

 閑話休題。今年、鈴木清順監督は生誕100年。以下は若干の公式の紹介。

 そもそもは松竹大船で、映画人としてのスタートを切り、その後日活に移籍、青春映画、アクション映画を 40本(?)手掛けたのちに、『殺しの烙印』で日活から解雇、「鈴木清順問題共闘会議」として問題になる。 その後、松竹配給で一本監督したのちに、独立系プロダクション「シネマプラセット」にて『ツィゴイネルワイゼン』 を発表、国内外で評判をとる。以降、大正浪漫作といわれる『陽炎座』『夢二』を発表する。 『ツィゴイネルワイゼン』を含めたこの大正浪漫三部作は宮崎キネマ館でも上映されるはずなので、是非!

 さて鈴木清順の映画は、よく現実と幻想の区別がつかなくなるという感想をよく聞きます。 特に大正浪漫三部作はそれゆえにアートフィルムとまで呼ばれますが、鈴木作品にはそんな区別は存在しない というのが、僕の実感です。あえて言えばすべて現実であると言いたい。こんなことが起こった、それをフィルムに 焼き付けるのだという強固な意志がこれらの作品からはみてとれますが、この作風は日活の プログラムピクチャー時代に培われていったものです。今回上映される『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』 『関東無宿』『東京流れ者』をご覧いただければ、その強烈な作風が開花していく様をご覧いただけると思います。

 いや俺はそんな監督のことには興味がないよ、ただ面白い映画が見たいのだ、まぁ普通の観客の方は そんな感じなのではないでしょうか。しかしこの『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』『関東無宿』 『東京流れ者』の三本に共通する、ある定型の物語が、映像と音響によって、迷宮に落ち込んでいく作風は、 どんな方の心にも巣食ってしまう強烈な体験であると思います。こんな強烈な体験は後戻りのできない面白さと いうべきもので、是非、劇場で体感していただければと思います。

ジム・ジャームッシュ (Jim Jarmusch 1953-)

ストレンジャー・ザン・パラダイスフライヤー画像 パターソンフライヤー画像

「11月5日『ナイト・オン・ザ・プラネット』の上映は、松居大悟監督にジム・ジャームッシュ作品の魅力につ いて語ってもらうという贅沢な上映回となっております。ジャームッシュあまり観たこともないという方は勿論、 ジャームッシュが好きという方も、ジム・ジャームッシュのフィルモグラフィーについておさらいしておきましょう! こんな映画を撮っている監督さんですよ!」

オハイオ州に生まれる。ノースウェスタン大学でジャーナリズムを、コロンビア大学で文学を専攻した。 その後ニューヨーク大学で映画を学ぶ。ニコラス・レイやヴィム・ベンダースに師事し、1980年に初監督作 「パーマネント・バケーション」を発表。長編2作目「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(84)で カンヌ国際映画祭のカメラドールを受賞。

監督・脚本作品

  • パーマネント・バケーション Permanent Vacation (1980年) - 監督・脚本・製作・音楽・編集
  • ストレンジャー・ザン・パラダイス Stranger Than Paradise (1984年) - 監督・脚本・編集
  • ダウン・バイ・ロー Down by Law (1986年) - 監督・脚本
  • ミステリー・トレイン Mystery Train (1989年) - 監督・脚本
  • ナイト・オン・ザ・プラネット Night on Earth (1991年) - 監督・脚本・製作
  • デッドマン Dead Man (1995年) - 監督・脚本
  • イヤー・オブ・ザ・ホース Year of the Horse (1997年) - 監督・脚本(ドキュメンタリー)
  • ゴースト・ドッグ Ghost Dog: The Way of the Samurai (1999年) - 監督・脚本・製作
  • 10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス Ten Minutes Older: The Trumpet (2002年) - 監督・脚本
  • コーヒー&シガレッツ Coffee and Cigarettes (2003年) - 監督・脚本・編集
  • ブロークン・フラワーズ Broken Flowers (2005年) - 監督・脚本
  • リミッツ・オブ・コントロール The Limits of Control (2009年) - 監督・脚本
  • オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ Only Lovers Left Alive (2013年) - 監督・脚本
  • パターソン Paterson (2016年) - 監督・脚本
  • ギミー・デンジャー Gimme Danger (2016年) - 監督・脚本(ドキュメンタリー)
  • デッド・ドント・ダイ The Dead Don't Die (2019年) - 監督・脚本